上質世界とは?勝間和代さんのYouTubeから選択理論心理学を深掘りしてみた

最近はYouTubeからヒントを得ることも多く、いいYouTube発信は非常に貴重だなぁと思う。
3〜4年前によく聞いていた勝間和代さんのYouTubeに、再び遭遇するようになった。禁酒のことで一度調べたから、アルゴリズムが思い出してくれたのだと思う。おすすめ欄というのは、案外こちらの人生の節目を覚えているものだ。
そこで出てきたのが「上質世界」である。
最初に聞いたとき、私はこう受け取った。
理想の世界をイメージして、そこに向かっていく姿勢でいると、ものごとは上質世界へ繋がっていく——
いい話だ、と思った。そして深掘りしてみた結果、この理解は間違っていたことがわかった。しかも、間違いに気づいたことで、この言葉は「いい話」から「使える道具」に変わった。今日はその顛末を書いてみたい。
上質世界とは:グラッサーの選択理論心理学
上質世界(クオリティ・ワールド)は、アメリカの精神科医ウィリアム・グラッサー博士が提唱した「選択理論心理学」の中心概念である。カウンセリング手法「リアリティ・セラピー」の理論的土台として体系化され、日本でも学会があり、学校教育や企業のマネジメントに応用されている。スピリチュアルではなく、れっきとした心理学の用語だ。
選択理論の定義はこうである。
上質世界とは、自分の欲求を最も満たしてくれる「イメージ写真」が貼られた、頭の中のアルバムである。
アルバムに貼られる写真は、大きく3種類。
- 一緒にいたい人(家族、親友、仲間)
- 所有したい・経験したいもの(好きな食べ物、行きたい場所、趣味)
- 行動を導く信条・価値観(哲学、信仰、「こうありたい」という指針)
そして選択理論の核心は、次の一文にある。
私たちは、このアルバムの写真に近づくために、そのとき最善と思う行動を選び続けている。
つまり上質世界は、未来のご褒美ではない。今この瞬間の行動を決めている、原因のほうなのだ。
私の誤解:上質世界は「向かう先」ではなく「すでにある」
ここで冒頭の私の理解を並べてみる。
- 私の理解:「理想をイメージし続ければ、上質世界へ繋がっていく」
- 選択理論:「上質世界はすでに頭の中にあり、それが今の行動を決めている」
矢印の向きが逆なのである。
私の理解だと、上質世界はゴール地点で、イメージすることが手段になる。これはいわゆる「引き寄せの法則」の構図だ。しかし選択理論では、上質世界は生まれてまもなくから書き込まれ始めている現在進行形のアルバムであって、願う対象ではない。
この違いは、実践面で決定的だと思う。
「引き寄せ」なら、やることはイメージすること。しかし選択理論なら、やることは2つになる。
- 自分のアルバムに、実際は何が貼ってあるのかを確かめる
- 写真と現実のギャップを埋める行動を、自分で選ぶ
願うのではなく、開いて、確かめて、動く。精神論が急に実務になった感じがして、私はここで俄然面白くなった。
アルバムの下にあるエンジン:5つの基本的欲求
なぜアルバムの中身が人によって違うのか。選択理論は、その根っこに5つの基本的欲求があると考える。
- 愛・所属の欲求(家族、仲間、つながり)
- 力・価値の欲求(認められたい、達成したい、役に立ちたい)
- 自由の欲求(縛られたくない、自分で選びたい)
- 楽しみの欲求(面白がりたい、学びたい)
- 生存の欲求(健康、安全、経済的安定)
5つとも誰もが持っているが、強さのバランスは人それぞれ。このバランスの違いが、アルバムに貼られる写真の違いになる。
勝間さんは著書『勝間式 超ロジカル選択術』で、この5つから自分にとって特に強い2つを選び、それを判断の軸にすることを勧めていた。「全部大事」では何も選べない。あえて2つに絞る、というのがいかにも勝間さんらしい割り切りで、これは実際やってみる価値がある。
ちなみに私は「愛・所属」と「楽しみ」が強いようだ。一人で黙々と稼ぐ話にはあまり写真が貼られておらず、仲間と何かをやる場面と、新しく学ぶこと自体に写真が集中している。ブログも還暦野球も、なるほどそういうことかと妙に納得した。
一人で黙々と稼ぐになかなか集中できないのも、もともと稼ぐ欲求が薄いためかな?
今は稼ぐことの欲求が、MAXある。
自治会長として痛感した「アルバムに貼られていないもの」
この理論で、長年の疑問がひとつ解けた。
私は地元の自治会で会長をしている。いちばん頭の痛い問題は、役員のなり手がいないことだ。輪番制で「次はお宅の番です」とお願いして回るのだが、年々、この方式の限界を感じていた。
選択理論の言葉を借りれば、こういうことだったのだ。
「自治会の役員」という写真は、ほとんどの人のアルバムに貼られていない。
そして人は、アルバムにないものには関心を払わない。貼られていない写真に向かって「順番ですから」と外から押しても、動くはずがない。私が「最近の人はやる気がない」と感じていたのは、相手の資質の問題ではなく、そもそも存在しない写真を指差していたという構造の問題だった。
選択理論では、批判する・責める・ガミガミ言う・脅す・罰する・褒美で釣るといった外側からの働きかけを「外的コントロール」と呼び、人間関係を壊す元凶だとする。
しかも怖いのは、外的コントロールを使い続けると、相手のアルバムから自分の写真が剥がされていくという点だ。夫婦が結婚当初はお互いをアルバムに貼っているのに、年月とともに剥がれていくのは、この積み重ねなのだという。耳が痛い話である。
だからいま、うちの自治会では役員選出を輪番制から立候補・推薦制へ変える規約改正を実施した。
「順番だから」を「引き受けたいから」に変えた。慣れるには時間はかかるが、外から押すのをやめて、それぞれのアルバムに委ねる方向へ舵を切ったつもりだ。
禁酒で実感した「前輪しか動かせない」
選択理論にはもうひとつ、「全行動」という考え方がある。人の行動を「行為・思考・感情・生理反応」の4要素で捉え、これを車にたとえる。
- エンジン=5つの基本的欲求
- ハンドルの向かう先=上質世界
- 前輪=行為と思考(直接動かせる)
- 後輪=感情と生理反応(直接は動かせない)
前輪駆動の車と同じで、自分で切れるのは前輪だけ。感情という後輪を手で回そうとしても空回りする。しかし前輪の向きを変えれば、後輪は遅れてついてくる。
禁酒は、まさにこれだった。
「飲みたい」という気持ちを意志でねじ伏せようとしたときは、うまくいかなかった。うまく回り始めたのは、気持ちではなく行為を変えたときだ。
家に酒を置かない。夕方の習慣を別のものに差し替える。前輪だけを黙って切る。すると数週間後、「飲みたい」の後輪が、いつのまにか同じ方向を向いていた。
感情は選べない。しかし行為と思考は選べる。この一点を知っているだけで、ずいぶん生きやすくなる。
まとめ:アルバムを開く、前輪を切る
要点を整理する。
- 上質世界=5つの基本的欲求を満たすイメージ写真が貼られた、頭の中のアルバム
- 写真は「人・もの・信条」の3種類
- 上質世界は向かう先ではなく、すでにあって今の行動を決めているもの(ここが引き寄せとの違い)
- アルバムの中身は人によってまったく違う。貼られていないものに、人は動かない
- 外的コントロールは、相手のアルバムから自分を剥がしてしまう
- 直接動かせるのは行為と思考(前輪)だけ。感情は後からついてくる
「理想をイメージすれば繋がっていく」と思っていた頃の私に教えてやりたい。イメージするのではない。開くのだ。自分のアルバムを開いて、何が貼ってあるかを確かめて、前輪を切る。
還暦を過ぎると、アルバムには「もう手に入らない写真」も貼られている。選択理論のいいところは、アルバムは貼り替えていいとはっきり言ってくれることだ。
上質世界は固定されたものではなく、生きている限り作り変えられていく。
人生100年時代、後半戦のアルバム編集は、むしろこれからが本番である。
参考
- ウィリアム・グラッサー『グラッサー博士の選択理論』柿谷正期訳(アチーブメント出版)
- 勝間和代『勝間式 超ロジカル選択術 後悔しない自分になる!』(SBクリエイティブ)
- 日本選択理論心理学会「選択理論とは」 https://www.choicetheory.jp/about/
- 勝間和代さんのYouTube動画(※https://www.youtube.com/watch?v=p9BYZcTKIr4 )


