樒(しきみ)と榊(さかき)

毎朝、仏壇と神棚にお祈りをしている。
仏壇には樒を飾り、神棚には榊を飾る。
十年以上続けてきた習慣だけれど、ふと手を止めて考えてみた。これって、何の意味があるのだろう?
どちらも見た目はよく似た常緑樹で、日持ちが良く、長い日数、緑のいぶきを与えてくれる。だからこそ、うっかり「同じようなもの」として扱ってしまいそうになるのだけれど、調べてみると、この2つはまったく違うものだった。
樒とは
樒はマツブサ科の常緑樹で、独特の強い香りを持つのが特徴。そしてもう一つ、実は毒性がある。
この「香りと毒」こそが、樒が仏事に使われてきた理由らしい。香りは場を清め、死臭を抑える役割を果たし、毒は邪気を遠ざけるものと信じられてきた。関西地方では、今でも葬儀の際に「門樒(かどしきみ)」を式場の入り口に飾り、結界を張るような使い方をする地域もある。
名前の由来には諸説あるけれど、「四季を通じて美しい緑を保つ」ことから「四季美」になったという説、実に毒があることから「悪しき実」が転じたという説などがある。どれが正解かはっきりしないところも、なんだか樒らしい。
個人的に面白いのは、樒を仏事に用いるようになったきっかけとして、弘法大師・空海が関わっているという説があることだ。天竺(インド)の青蓮華に似た植物として、密教の祈祷に用いたのが始まりだと伝えられている。空海の足跡を追って霊場を巡ってみると、こういうところでふと縁がつながる瞬間があって、それがまた面白い。
榊とは
一方の榊は、ツバキ科の常緑樹。「榊」という漢字そのものが、木へんに神と書く。中国から伝わった字ではなく、日本で生まれた国字だというから、この一字に日本人が榊へ抱いてきた特別な感覚がそのまま表れている。
語源はこちらも諸説あるが、有力なのは「境木(さかいぎ)」が転じたという説。神様の領域と人の世界の「境」に置かれる木、という意味だ。ほかにも、一年中葉が茂ることから「栄える木」、神聖な木を意味する「賢木(さかき)」が転じたという説もある。
古くから、先の尖った植物には神様が宿りやすいと考えられてきた。榊の葉先の鋭さも、神様の依代(よりしろ)としてふさわしいとされた理由の一つらしい。神棚に飾る榊は、毎月1日と15日に新しいものへ交換するのが一般的とされているが、寒い時期にはもっと長く飾っているのが実情。
樒と榊、何が違うのか
並べてみると、輪郭がくっきりしてくる。
- 樒:仏事の木。香りと毒で場を清め、邪気を遠ざける。空海ゆかりの説あり。
- 榊:神事の木。神と人の境に立ち、神様の依代となる。「神」の字を宿す国字。
見た目は似ていても、生まれてきた文脈がまったく違う。片方は仏教とともに大陸から渡ってきた文化で、もう片方は日本古来の神道の中で育った言葉だ。
毎朝、仏壇に樒を、神棚に榊を供えて祈る。その15分間ほどの所作の中に、実はこれだけ違う歴史と信仰が同居している。知らずに手を合わせていた頃より、少しだけ、この毎朝の時間が丁寧なものに感じられるようになった気がする。

